ゲーム理論ブックガイドー洋書

ゲーム理論の洋書についての紹介です。洋書への希望が多いのは、ゲーム理論を専門に勉強する大学院生と学部高学年であり、次に洋書購読等のテキストを選定する教員であると考えられますので、それらの方を対象として、案内をしています。

初級テキスト(学部高学年向け)

Game Theory with Economic Applications (2nd Edition) (1997), H. Scott Bierman and Luis Fernandez, Addison Wesley, ISBN-10: 0201847582
あまり知られていない本だが、経済学部・経営学部をはじめとする初級向けのテキストとして、この本は結構良い本でお勧めしている。私が東工大にいたときは、数学できっちりと書かれたゲーム理論の本しか価値を見出せなかった。岩手県立大学へ移り、初めて文系の学生を前にしたとき、それまでの私の考え方は大きく変わった。この本は私に、ゲーム理論のテキストが数学を駆使しなくても、緩やかな定義で面白みがあることを教授できることを、私に示してくれた本である。Dixit and Nalebuffと共に社会人にーム理論を教えるコツを教えてくれた本でもある。簡単な理論を説明した後に、複占・交渉・投票・モラルハザードなど応用について書くスタイルは、私が書いたテキストの原点とも言える本である。
Game Theory for Applied Economists(1992) , Robert Gibbons, Princeton University Press, ISBN-10:0691003955
邦訳も出ている初級向けテキストの定番。1992年に出され、当時はこの本しかテキストがなかった。未だに色あせず、アメリカのamazon.comでgame theoryを検索してもベスト10に入るのは、この本が良書で読み継がれていることを意味しているのではないだろうか(ゲーム理論がそれから発展していないことを意味しているのではないことを願う)

中級テキスト(大学院生向け、ゲーム理論が専門でなくても...)

Economics and the Theory of Games (2003) Fernando Vega-Redondo (著)、Cambridge Univ Pr 、
ISBN-10: 0521775906
 経済学・経営学において、ゲーム理論を専門とする大学院生が一番最初に読むのに良いテキストとしてお勧めする。前半部は合理的なプレイヤーをベースとした古典的なゲーム理論、後半は進化ゲームや学習などの新しいゲーム理論について解説されている。応用とフォーマルな「記述」に重点が置かれているが、数学的記述に関しては困難な部分には立ち入っていない。特に前半部は基本的な理論が解説され、そのあとに寡占市場・交渉・公共経済学への理論の応用が示されるという形をとり、経済学の理論への橋渡しとなる。理論をフォーマルに学び、それをどのように応用するかが理解できる。協力ゲームに関する記述が全くないのが残念。

上級テキスト(ゲーム理論の研究者になりたい人へ)

A Course in Game Theory (1994), Martin J. Osborne, Ariel Rubinstein, Mit Press, ISBN-10: 0262650401.
 上級テキストとして人気がある3冊の中の1つ。経済学よりは「ゲーム理論」そのものに興味がある人に人気がある。ゲーム理論の研究に必要な概念の定義と定理と証明が続く。ゲーム理論の研究者となるには、概念を完全にフォーマルに記述できて、それを証明できることが重要であるが、この本によってそれを訓練することが可能である。通常のゲーム理論のテキストは、ゲームを利得関数(効用関数)によって表現するのだが、この本ではRubinsteinのこだわりとも言える選好順序によって表現するところから入るところが、魅力的であるとは言え、この本を取りつきづらいものにしている。最初のこの部分をクリアし慣れる事ができれば、大変良いテキスト。協力ゲームの記述も、それなりにある。
Game Theory: Analysis of Conflict (1991), Roger B. Myerson, Harvard University Press, ISBN-10: 0674341163
 上級テキストとして人気がある3冊の中の2つ目。やはり経済学よりは「ゲーム理論」そのものに興味がある人向けで、Osborne and Rubinsteinと同様に定義と定理と証明が続く。ゲーム理論における様々な概念に対する考え方は、Myerson独特ではあるが「光る解説」もある。私が講義で用いるナッシュ均衡の解釈は、この本をベースにしている。ややMechanism Designに偏っており、特にMyersonの研究テーマであったBayesian Implementation に近いテーマにページが多く割かれている。契約理論や情報の経済学に興味がある人は、この本から別の視点を学べて面白いかもしれない。この本もOsborne and Rubinsteinと同様に第1章が、通常のゲームの定義から入らずstate dependentな期待効用から入るという特異な入り方をしていて、この1章に慣れるのが大変だ。もちろんゲーム理論の先の先まで行くとありがたさが分かるが、入口は広くした方が良いだろうに。どうして皆んな、入り方にクセをつけてしまうのだろう。
Game Theory (1991), Drew Fudenberg, Jean Tirole, Mit Press, ISBN-10: 0262061414.
 上級テキストとして人気がある3冊の中の3つ目。3つのテキストの中では、最も経済学への応用に関するテーマが多いテキストである。また、経済学への応用だけではなく、上記の2つのテキスト(Osbone and Rubinstein, Myerson)では扱っていない(FudenbergとTiroleの数多い研究に関連した)広いトピックを扱っている点でも優れており、経済学以外の研究者にも読む価値はある。例えば、多段階ゲームと言うゲームのクラスを定義して、open loopとclosed loop均衡について述べて、最後の方はdiffrential game やCapital-Accumulation Gamesにつなげたり、評判についてlong-run playerとshort-run playerの話が出てきたり、均衡の精緻化では、payoff unceratintyに対するrobustnessの話が出たりする。更に最後の方はcommon knowledge, 不連続な利得関数における均衡の存在、Markov Equilibrium、挙句の果てにSupermodular Gamesと来て、現在も興味を持たれる多くのトピックがあり、この本が1991年に書かれたということに驚かされる。
  このような優れた点がある反面、上記の2つのテキストに比べ数学的な厳密さに欠ける所があり、形式的に理解したい人間には大変ストレスが溜まる本でもある。実際に、Fudenberg and Tirole (1985) のtiming gameの論文で苦しむ私にとって、この本の甘さは身にしみる。
  私見だが、連続した時間や無限期間のゲームを扱う場合は、未だにいろいろな定理が成り立つ範囲が厳密に詰められていないし、離散的な立場からの漸近的なアプローチも未整備だ。とにかく「無限」は難しいのである。前の2つの本が厳密に成り立つ範囲で話を進めているのに対し、この本が扱う部分はそのような点に踏み込んでゲーム理論の応用が広がって行った事を感じさせるが、それと共にゲーム理論の困難な点も感じさせる。
Game Theory (3rd edition)(1995), Guillermo Owen, ISBN-10: 0125311516, Academic Press.
 3rd edistionは1995年発刊だが、1st editionは1968年に書かれたようだ。私は1990年ごろ、この本の2nd editionでゲーム理論を勉強した。まだ上記の3つの本が出る前で、代表的なゲーム理論のテキストであった。その1年後にMyersonが出たが、内容はまるっきり違うものであった。このことから分かるように、この本は現在のゲーム理論の内容から離れており、古く、古典といえる本かもしれない。しかしながら、この本は現在も以下の2点で読む価値がある本だ。
  まず第1に近年のゲーム理論は解析的な手法に偏っているが、本来のゲーム理論は代数的な側面が強い。例えば、現在のゲーム理論の標準的なテキストは、ミニマックス定理をナッシュ均衡の存在定理(おおもとは不動点定理)から系として導くものが多い。しかし、元来ミニマックス定理は、線形計画法の強双対定理と密接に関連し、ファルカスの補題を通じて導くことが出来るし、線形計画法によって解を求めることも可能だ。このような内容は現代のテキストにはないが、この本では3章がそのまま「線形計画法」であったりして、それを詳しく学ぶことが出来る。また第2に、現代のゲーム理論のテキストには協力ゲームの記述が少なすぎるが、この本は協力ゲームに関する記述が多い。これは60年、70年には協力ゲームの方が非協力ゲームよりも盛んに研究されていたことを示すものである。協力ゲームも、ゲーム理論の重要な分野であり、これを学ぶためにも本書は優れている。