どの学問分野でも,そこで研究されていることを,一般の人 々に正しく認識してもらうのは難しい.私のやっている理論計 算機科学もその一例である.「コンピュータ関連の研究をして います」などと言おうものなら,たいていは,コンピュータを 縦横無尽に操る典型的現代人と買いかぶられるか,あるいは, コンピュータお宅の変人と思われるかのどちらかである. それというのも,理論計算機科学とは,どんな学問で,どん な研究がされているのか,世間,いや理工系の人々に限っても, あまり知られていないからである.歴史が浅いから,世間があ っと驚くような結果がまだまだ少ないから,等の理由もあるが, 世間への啓蒙が足りないというのも,その一因だろう. その啓蒙を目指した本が,この「はみだし幾何学」である. 計算幾何学の専門家である著者が,計算幾何学の話を中心に, アルゴリズム(計算法)の研究から計算の複雑さの研究まで, 一気に説明した本である.題材に,わかりやすく,しかも素直 に興味の持てるものを選んだのが,本書を魅力的にしている要 因だろう.また,説明もアイデアだけにとどめて,何となく分 かったような気にさせるところがにくい.とくにボロノイ図と その応用を説明している3章は秀逸である. ただ,ピュクシス・ネットの皆さんには,細部を省いて説明 しているので,少々,もの足りないところがあるかもしれない. (もっとも,そういう人にはあえて啓蒙する必要もないのかも しれないけれど).また,興味を持った読者のために,代表的 な教科書を参考文献にあげておいて欲しかった. 最後に,本書の中にあった未解決を一つ紹介しよう.平面上 に(同一直線上にない)点が 243 個あると,必ず,その中に, 凸七角形を構成する 7 点が存在することがわかっている.では, 242 個ではどうか?それがまだわかっていないのだそうだ.実 は 32 個では存在しない場合があり,33 個あれば十分と予想さ れているそうだ.こんな簡単そうなことが未解決だとは!誰か 証明してみません!?
|