(95-4-1)
title: ヘーゲル・大人のなりかた
author: 西 研
from: NHKブックス[725] 950円
reviewer: 山下 健司(kenji@cs.titech.ac.jp)

本書の書き出しは「ヘーゲルはいま、さっぱり人気のない哲 学者である。」 という一文で始まる。一昔前までは、近代哲学 の完成者とまで言われたヘーゲルが今ではけんもほろろの扱い である。本書ではヘーゲル哲学が何を問題にし、また現在何故 これほどまでに毛嫌いされるに到ったのかを分かりやすく解説 している。

現在では一般にヘーゲルは真理の体系を打ち立てた哲学者と して知られている。彼に依れば、すべての真理は彼の体系から 導くことができるという。では、彼は若い頃からこのような『 難しいことばかり考えるカチカチ頭の持ち主』だったのだろう か?筆者は言う、「そうではない。彼は個人が自由に、そして また道徳的に暮らせるような社会の創造を熱望していたのだ。」 と。また、愛によってそれが実現できるのではないかとさえ考 えていた。しかし、彼は「愛による人間解放」が実現可能なの か徹底的に考えずにはいられなかった。その結果、彼は愛を断 念し、哲学の道に進むことになる。

彼の哲学は、「わがままな自己意識が社会性に富む理性に到 る正しい道のり」を歴史的な解釈によって導き出したものと言 える。その「正しさ」を主張したが故にポストモダンの思想家 たちによって、ヘーゲル哲学こそ諸悪の根源だと見倣されるよ うになった。

では、彼の哲学は現在では完全に力を失ったのであろうか? 彼は個人と社会の有り様を徹底的に考え続けた。その結果、彼 の哲学は社会に齟齬を感じた人がいかに生き、自分の生を肯定 できるようになるかについての一つの解答を与えてくれたので はないだろうか。愛の思想を説くロマンチストから、現実をい かに生き社会を改善するかというリアリストへの変身。ヘーゲ ルの哲学はまさに大人へと誘う第一歩である。