(96-2-3)
title: ハイデガーの思想
author: 木田元
from: 岩波新書 650円
reviewer: 山下健司(kenji@cs.titech.ac.jp)

「ものが在る」とは一体どういうことなんだろうか?この一見自 明であるように思えて、なお根源的である問いに答えようとし続け た哲学者がいる。彼の名はマルティン・ハイデガー。存在論の創始 者、今世紀最大の哲学者など彼に冠せられた修飾子は多いが、その 思想はその膨大な著作群に示されるように多岐に渡り、彼の思索を 追おうとする者にとっては堅牢な砦となって立ちはだかる。

彼の思想史は大きく2つに分けられる。主著である『存在と時間』 を発表し、今日「存在論」と呼ばれる哲学を確立しヨーロッパの思 想界に激しい影響と与えた前期の思想。「転回(ケーレ)」により、 これまでの思想を捨て、現在でも解釈が不能な程の晦渋な議論を展 開する後期の思想。この時期にはまた優れた言語論・芸術論をも展 開している。

本書では日本におけるハイデガー研究の第一人者が、前期の思想、 主にハイデガーがなぜ存在を問わねばならなかったのかという問題 に焦点と当てて、その歴史的背景と取り組みについて分かりやすく 詳述している。ハイデガーには存在論を核にした独特の時間論があ るが、それについては軽く触れられている程度なのは少し残念であ る。ハイデガーはナチスに協力するなどその人柄には問題点も多い。 彼の思想に心酔している筆者でさえもその性格は好きになれないと いう。彼の思想にハマってしまうか、それとも嫌悪するか、それは あなた次第である。